トップへ

講義: 4_14 顕生代5:中生代から新生代へ(その2)
掲示板: 子孫のために・人類の叡智・レポート


(2004.03.11)
 前の講義は、白亜紀末のK-T境界におこった絶滅のナゾについての話題でした。絶滅の原因は、隕石だといういうことが、たくさんの研究者の努力でわかってきました。今回は、その事件のようすを、くわしくみていきましょう。


■講義 4_14 顕生代5:中生代から新生代へ(その2)

▼5 隕石の衝突
1 どれほどの大きさの隕石か
 隕石の大きさを、さぐっていきましょう。
 まず、わかっているのは、K-T境界の地層にあったイリジウム(Ir)の量です。K-T境界に集まっているイリジウムの量に、地球の表面積をかければ、地球全体のK-T境界にあるイリジウムの合計が計算できます。
 また、ふつうの隕石にふくまれているイリジウムの量がわかりますから、地球全体にばらまかれたイリジウムの量から、K-T境界に落ちた隕石がどれほどの大きさだったかがわかります。
 最初にK-T境界のイリジウムが測定されたイタリアのグッビオの粘土層からは、直径6.6kmの隕石と計算されます。また、デンマークの粘土層にふくまれるイリジウムからは、直径14kmの隕石が衝突したと計算されました。まあ、誤差(ごさ)は大きいでしょうから、直系10kmほどの隕石が衝突したと考えればいいでしょう。


デンマークのK-T境界

2 何が起こったか
 直径10kmほどの隕石が、K-T境界の時代に、地球に衝突したのです。そのときのようすは、もうみることはできません。しかし、小さな石を衝突させることで実験することはできます。そんな実験が、いろいろな条件でくりかえしおこなわれました。衝突実験の結果を、直径10kmの隕石にあてはめてみればいいのです。
 直径10kmの隕石が、25km/秒のスピードで地表に衝突するとしたら、1億メガトンのTNT爆弾にあたるほどのたいへん大きなエネルギーがでると計算できます。このエネルギーの量は想像もつかないでしょう。
 このエネルギーとは、広島に落とされた原爆は13キロトンでしたから、その70億個ぶんのエネルギーとなります。旧ソビエトとアメリカの冷戦の時代に、核兵器が一番たくさん保有されていた量である6万個の核爆弾を、すべて爆発させたより、はるかに大きなエネルギーなのです。
 べつの比較をしましょう。世界の人類ひとりひとりに1個の広島の原爆を爆発させるほど、地球の表面積1km/m2あたり10個の広島の原爆が爆発させるほどのエネルギーなのです。とんでもないエネルギーが、たった1個の隕石衝突から、生みだされたのです。
 もちろん、これほどのエネルギーがいっきに出されると、たいへんな異変(いへん)が、地球にはおこります。
 想像されている異変だけでも、
・超巨大津波
・大火災
・酸性雨
・チリやススによる長期にわたる太陽光の遮断
などがおこります。どれをとっても、いまだかつて人類が経験をしたことがないほどの規模のものばかりです。
 たとえば、最後の異変、太陽の光が地表にどとかなくなるという事件です。これがおこるとどうなるでしょうか。もちろん寒くなります。でも、それ以外にもたいせつな役割も太陽の光にあります。
 長い期間にわたって太陽の光が地表にとどかないと、光をつかって光合成をする生物がすべて絶滅してしまいます。もちろん陸上の植物だけでなく、海にすんでいる植物プランクトンも絶滅します。草を食べていた草食動物や、植物プランクトンを食べていた動物プランクトンや小魚たちも絶滅します。そして、食物連鎖の最後にいた、草食動物や小魚を食べていた肉食の動物も絶滅します。
 隕石の衝突によってひきおここされる絶滅は、衝突によって直接死ぬのではなく、いろいろな連鎖によって、より広い範囲に広がっていきます。もちろん、進化をしている時間などありません。K-T境界では、隕石の衝突によってひきおこされた異変と、そこから生まれた連鎖によって、多くの生物が絶滅してしまったのです。

世界中から見つかったK-T境界の証拠

▼6 衝突説の影響
1 激変説の復活
 激変(げきへん)説とは、キリスト教の聖書に書かれていたことを信じていた時代の考えかたで、その代表的なものは、キュビエが1812年にいったものです。
 地球の歴史では、急な異変(天変地異(てんぺんちい)ともいわれます)が何度もあり、そのたびに生物が絶滅し、異変が回復したら、そのたびに新しい生物があらわれたという考えかたです。
 キリスト教が信じられていた時代には、異変を「ノアの洪水」とみたてると信じやすいものでした。生物を生みだす(創生(そうせい)といいます)のは神による、という考えが、西洋のキリスト教の時代にはあったために、激変説を受けいれる人も多かったのです。
 そんな激変説も、科学の進歩とともに、消えて斉一(せいいつ)説にかわっていきました。斉一説とは、現在も昔も同じような作用が地球には働いていて、その積み重ねが、現在の地球をつくっているという考え方です。
 しかし、K-T境界の隕石の衝突は、新しい激変説のが、ふたたび科学的に生まれたともいえます。すると、研究者は、ほかの時代の大絶滅でも、激変説、隕石の衝突が起こってないかということを、すぐに調べていきます。その結果は、次のような表になりました。

表 大量絶滅と衝突の証拠と候補のクレーター
---------------------------------------------------------------------
始新世−漸新世 3370万年前
 証拠:テクタイト、マイクロテクタイト、衝突石英、コーサイト
 ポピガイ(シベリア):3570万年前、直径100km
 チェサピーク湾(アメリカ):3550万年前、直径85km
白亜紀−第三紀(K-T) 6500万年前
 証拠:イリジウム、衝突変成鉱物、マイクロテクタイト、スフェルール、スピネル、ダイヤモンド
 チュチュルブ(メキシコ):6500万年前、直径170-300km
ジュラ紀−白亜紀 1億4500万年前
 証拠:イリジウム、衝突石英、シダのスパイク
 モロクウェン(南アフリカ):1億4500万年前、直径70-340km
三畳紀−ジュラ紀 2億0200万年前
 証拠:衝突石英、弱いイリジウム・ピーク
 マニコーガン(カナダ):2億1400万年前、直径100km
 プチェジ・カトウンキ(ロシア):2億2000万年前、直径80km
ペルム紀−三畳紀(P-T境界) 2億5000万年前
 証拠:弱いイリジウム・ピーク、衝突石英、マイクロスフェルール
 アラギーニャ(ブラジル):2億4700万年前、直径40km
後期デボン紀 3億6700万年前
 証拠:マイクロテクタイト、弱いイリジウム・ピーク
 シルヤン(スウェーデン):3億6800万年前、直径52km
オルドビス紀−シルル紀 4億3800万年前
 証拠:弱いイリジウム・ピーク
 (クレーターは知られていない)
---------------------------------------------------------------------

 この表は、大絶滅が隕石の衝突が起こったという、前提で調べられた結果です。いろいろな時代の大絶滅を隕石衝突による激変説でも調べようとしているのです。大絶滅ごとに、その時代のクレータやいくつも証拠が、見つかってきています。でも、多くの研究者が、なっとくするような、証拠がなかなかそろわないのが現状のようです。いまのところ、K-T境界以外の隕石衝突による可能性は、まだまだ証拠不十分です。

2 核の冬
 K-T境界の大絶滅が隕石の衝突によるものだということになってきて、あらたな展開(てんかい)もおこりました。
 1980年に発表されたアルヴァレらの論文に刺激(しげき)をうけた惑星科学者のカール・セーガンらは、1983年に「核の冬」という論文をサイエンスという科学雑誌に発表しました。その論文は、世界中に衝撃をあたえました。
 セーガンらの報告は、アメリカ合衆国と旧ソビエト連邦で、当時、使用できた核弾頭の半数以上が、核戦争で爆発したという仮定をしたものでした。その仮定にもとづいて、セーガンらはコンピュータをつかったモデル計算をしました。
 その結果、北半球で数ヶ月間にわたって、
・数10度の気温低下
・光合成の停止
・植物生物の破壊
・食物連鎖の切断
・オゾン層の減少
が起こり、生存者は非常に少ないという結果をしましたました。そして最後には、ホモ・サピエンスの絶滅をひきおこすと、結論しました。
 当時は、米ソの冷戦の時代であったので、たいへん話題になりました。この報告は、世界中に、恐ろしい近未来像として示されたのでした。このような研究者の冷静な報告によって、そこからひきおこされる結果の大変さが、世界中に伝わりました。そして、もしかすると、この論文が、全面核戦争をおさえた(抑止(よくし)といいます)のかもしれません。

3 核の生みの親
 なにも科学者がおこなったことが、いい結果をばかりを生んだわけではありません。原爆をつくったものも科学者です。それは、科学者の責任ではなく、時代と、そのような科学技術を使う人間の能力の問題なのです。そんな原子爆弾の中心にいた研究者が、皮肉(ひにく)なことに、K-T境界の科学研究の中心にいたのです。
 K-T境界の隕石説を発表した中心人物であるルイス・アルヴァレス(父のほう)は、原子爆弾に深く関係した人物でした。
 ルイス・アルヴァレスは、アメリカで第二次大戦中におこなわれた最初の原爆実験を上空から観測した科学者でした。それだけではありません。広島に実際に落とされた原爆の爆発を、上空から観測した、ただひとりの科学者でもありました。ルイス・アルヴァレスは、核兵器において、重要な事件に、二度にわたって上空から立ち会ってきたのです。ルイス・アルヴァレスは、原爆に深くかかわっていたのです。
 いってみれば、ルイスは、核爆弾の威力については、一番知っていた研究者であったはずなのです。しかし、彼の書いたK-T境界の論文には、その威力を原爆に比べることはしませんでした。彼にとって、原爆の開発は、時代の流れのもとに生まれたしょうがない結果なのでしょうが、やはり、良心のとがめることだったのかもしれません。ですから、意識的か無意識かはわかりませんが、論文にその結果をださなかったのかもしれません。
 K-T境界の衝突説は、人間の核戦争へとも複雑にからみあっていました。


■掲示板: 子孫のために・人類の叡智・レポート 

・子孫のために・
 前回紹介したNihさんとのメールが続いています。「生命の尊さ」についての私の考え方として、つぎのようなメールを送りました。

「歴史から学ぶことは大切です。そして、道を間違わないことも大切です。さらに、「子ども達の世代」にいい環境を与えることは大切です。でも、問題はこの最後の言葉にあると思います。環境保護の本にも、よく書いてある言葉です。情緒に訴える言葉です。でも、私は、この言葉にいつも悩み、無限ループに入り込んで、疲れ果ててしまいます。
 「子供たち」とは、どこまでを指すのかということについてです。自分たちの家族の子孫なのか、日本人の子孫なのか、人類の子孫なのか、生命にすべての子孫なのか、ということです。
 どれを指すかによって、この言葉の持つ意味がまったく違ってきます。両極端である「自分たちの家族の子孫」と「生命にすべての子孫」を考えてみるとよくわかります。
 「自分たちの家族の子孫」のためという、エゴイスティックに聞こえて、皆は賛成しないでしょう。でも、私は、生物の本能的な作用として、家族を守る気持ちは十分理解できます。
 一方、「生命にすべての子孫」とすると、現状の「人類」の振る舞いは、あまりにも横暴な感じがします。「人類」がいないほうが、その他、絶対多数の生物にとっては幸せをもたらすと思います。つまり、人類が絶滅してくれたほうが、他の生物にとっては、いいわけです。そんな人類自滅行為(現状維持でしょうか)が、他の生物には「いい環境」を提供できるでしょう。
 しかし、それでは意味がありません。悩んでいるのは「人類」なのです。その「人類」が絶滅しては意味がないのです。「人類」と「その他の生命」の共存を考えようとしているわけです。真の共存のためには、いまのような文明、資本主義、拝金主義などすべての文化的行為を中止、あるいは後退させなくてはいけないのは明らかでしょう。それも「人類」は誰も望まないことでしょう。
 などと考えていくと、まるで、「人類」は、すべての生命の上に君臨する「神」のような存在として、全地球や全生命、地球環境などを考え、振舞っていることに気づきます。いつから、「人類」は「神」になってものごとを考えるようになったのでしょう。恐ろしくなってきます。
 私は、いつも自然保護、環境保護を考えると、このループにたどり着き、くたびれ果てます。「神」にはなれないし、なりたくない。でも、「人類」として絶滅も嫌です。「家族」の絶滅も嫌です。そして、私の思考は停止します。」

・人類の叡智・
 Nihさんからのメールが続いています。

「Nihさんは「生命の尊さ」について、「たぶん、これだ!という本当の答えは無いと思います。」といわれました。私もそう思います。
 でも、考えることをあきらめてはいけないと思います。これは、現状での現代の人の感想に過ぎないのです。もしかすると、もっと環境が悪化して、皆がその状況を深刻に捉えたとき、いい知恵が浮かぶかもしれません。そのために、現代を生きる人がすべきことは、環境や、文明、あり方などいろいろ場面で、いろいろな考えやアイディア、技術などを出していくことだと思います。
 専門家は専門家で、門外漢は門外漢で、それぞれの立場でアイディアを出して、議論すべきだと思います。そこでは、借り物、誰かの二番煎じのアイディアは不要です。自分が独自に考えたものだけが、必要です。常識はずれ、大いに結構ではないでしょうか。非常識の中に、独創性が生まれることがよくあります。これは、歴史を見れば明らかです。そして、いずれは、そんな中に現状の問題を打開する素晴らしいアイディアがあるかもしれません。これこそが人類の叡智といえるものが。
 そのためにも、多くの人の知恵が議論が必要ではないでしょうか。」

・レポート・
 この講義では、「参考書は使わないこと」という指示で、3回のレポートを希望者のみにおこなってもらています。しめきりは設けませんでした。でも、あと、1回のこの講義もおわります。ですから、もし、かかれる方がおられましたら、レポートを書いてください。
 テーマは、次の3つでした。

第1回 生物は、なぜ進化していると思いますか。
 生物は、少なくとも35億年間は進化してきました。進化のしくみの「科学的解明(かいめい)」はあるていどされています。しかし、それは、科学的なことだけにすぎません。あなたは、生物が、なぜ進化していると思いますか。あなた自身の考えを書いて下さい。

第2回 地球環境が、本当に悪くなっていると思いますか。
 地球環境が悪くなっているといわれています。それも人類のせいによって環境が悪くなっていると、よくいわれています。あなたは、あるいはあなた自身にとって、地球環境が、本当に悪くなっていると思いますか。あなた自身の考えを書いて下さい。

第3回ヒトと他の生物は、共存(きょぞん)可能でしょうか。
 ひとは、ほかの生物を食料、ペット、鑑賞(かんしょう)用などとして、せっしています。では、それ以外のひととかかわりの少ない生物は、本当に必要でしょうか。あなたは、ほかの生物とのいっしょにうまくくらしていける(共存(きょうぞん)といいいます)でしょうか。あなた自身の考えを書いて下さい。

 まだ、遅くはありません。興味のある方、1回から順番でなくてもいいです。どれかひとつでもいいです。挑戦してみてください。お待ちしています。


トップへ