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課外授業 夢を追いかけて
掲示板: 明けましておめでとうございます


 年の初めですが、講義をたんたんとしようかと思っていました。でも、講義日の木曜日が1月1日ですから、なにか違ったことをしようと考えました。かといって、なにか特別なことをするアイディアもありません。そこで、考えたのが、次のようなものでした。新年にふさわしくない話題かもしれませんが、よろしければ、お付き合いください。

■課外授業 夢を追いかけて

 新年をむかえるにあったって、私の最近の自然への接しかたを書こうかと思います。このような変わった内容のメールマガジンをつかった講義をしている私、地質学者としょうしている私が、どのような研究をしているのか、それを書くことが、私の自然への接しかたを理解いだたく、いちばんいい方法かもしれません。私の研究テーマのあらすじを紹介して、新年のあいさつとしましょう。
 私は、北海道に2002年4月から住むようになりました。私は新しい仕事をみつて、家族ともども神奈川からうつってきました。それにともなって、研究テーマを、今までのものをすべて終わりにして、いちからスタートすることしました。こんなことをはじめたいというのも、仕事を変える大きな理由でありました。
 新しいテーマで目ざす分野として、地質学、科学教育、哲学の3つを決めました。
 地質学は、私が25年ほど取りくんできた研究分野です。ですから、地質学がこれからも研究の中心となります。科学教育は、以前いた職場から取りくみはじめて、13年間ほどつづけてきた分野です。そして哲学は、今まで必要だと思っていたのですが、なかなか取りくむことができず、新しい環境に来たのを機(き)にはじめようとしている分野です。しかし、これらの研究分野をばらばら取りくむのではなく、地質学が相手にしている自然を中心に、すべての分野を融合(ゆうごう)していきたいと考えています。
 私の取りくみたい科学教育は、地質学の材料をつかって、自然をよりよく理解できる方法がないかを考えるものです。このメールマガジンとホームページによる教育方法もこの一環でおこなっているものです。また、私が考えている哲学も、ふつうのものとは違っています。地質学には固有の自然の見方があるはずですから、その地質学的な視点を中心にした地質哲学というべきものをめざしたいのです。もう少しくわしく紹介(しょうかい)しましょう。
 私は、地質学で研究する地域を、地の利(り)をいかすために、北海道に移すことにしました。ただ、北海道のある限られた地域を研究とするのではなく、北海道の全域から、日本、世界に広がるようなテーマにしたいと考えました。
 そのテーマとして、3つの内容を考えました。ひとつは北海道に13個ある一級河川のすべてで川原の石ころを、できれば上流、中流、河口で調べること。つぎが北海道の川や海など自然の状態の砂を採取して調べること。最後が北海道にある94個の活火山で、代表的岩石の標本をいくつか採取して、火山の景観を撮影すること。これらの3つをテーマとしました。
 地質学の専門家からすると、この3つの内容は、どれもちょっと変わったもので、いままで地質学者があまり取りくんでこなかった素材です。つまり、あまり科学的な研究をするにはふさわしい素材であったのです。私は、そんな素材をあえて研究テーマとして取りくむことにしました。
 その理由は、市民の自然に対する興味と、科学者が興味をもって研究することことが、あまりにも離れている(乖離(かいり)ともいいます)ことに、問題を感じていたからです。このような市民の好奇心と科学とのギャップを埋(う)めることを、私の科学教育のテーマとしています。
 考え方だけではわかりにくいので、たとえ話をしましょう。
 だれでもいいです。石ころがいっぱい転がっている川原に連れて行ったらどうするでしょうか。何もいわなければ、変わった石ころを集めたり、川に石を投げたり、川に入ったり、石で川をせき止めたり、ついつい遊んでしまうはずです。川の石ころは、大人でも子供でも、好奇心をくすぐるもののはずです。砂浜に連れて行っても、同じように砂や海で遊ぶでしょう。
 このようなだれもが持つ自然への好奇心を、なぜ、科学は利用できないのでしょうか。なぜ、いかせないのでしょうか。もし、好奇心をいっぱいにした彼らに、科学者が、「これらの石は、火成岩、変成岩、堆積岩に分類できて、火成岩はマグマの化学組成によっていくつかに分類できて、・・・・」と説明をはじめたとしたら、どうでしょうか。今まで好奇心によって光りかがやいていた石ころが、とたんにおもしろくもない灰色の石ころに変わってしまわないでしょうか。
 なにもそれは川原や海などという自然の中だけのできごとではありません。実験室でも同じようなことが起こっています。石ころを光を通すようにうすく(薄片(はくへん)といいます)して、石用の顕微鏡(偏光顕微鏡(へんこうけんびきょう))でみると、そこには色あざやかな、今まで見たことないような、きれいで不思議な世界が広がります。だれもがその美しさに感動するはずです。でも、科学者が、「このような色の変化をする鉱物は角閃石で、色の変化は結晶を通りにけるときの光学的性質によって・・・・」と説明をはじめたらどうなるでしょうか。やはり鉱物の美しさが色あせ、かがやきが消えてしまうのではないでしょうか。
 なぜ、このようなことになるのでしょう。科学の伝えかたと市民の好奇心の間にギャップがあるからではないでしょうか。自然とは好奇心をくすぐるもののはずです。科学とはおもしろいもので、調べることにもおもしさがあります。でも、それがうまく伝わっていないのではないでしょうか。そんな科学のおもしろさを伝える方法がもっとあるはずです。それは、知識を伝えるのではなく、好奇心をみたしながら、科学的に調べるおもしろさを伝える方法がきっとあるはずです。
 そんな方法なら、きっと私自身でおもしろいなと思いながら、研究も進めていけるはずです。それを身をもって体験しながら進めていきたいと考えています。そこであらたに生まれた方法を市民に伝えるために使いたいと思いました。つまり、私自身がりくつぬきにおもしろいと思えることを、おもしろいまま市民に伝えたい、と考えています。
 そんな方法をさぐるための素材として、上でいった石ころ、砂、火山を選んだのです。もちろん地質学者としても、このようなだれも見むきもしなかった素材を、科学的な成果として研究者にも使えるものにもしていきたいと考えています。それができるかどうかは、私の努力と能力によります。これが、地質学と教育の両方をかねた研究テーマです。
 研究をしていくときに、私がおこなった調査や記録した石ころ、砂、火山の情報は、だれにでも役にたち、楽しめ、そして利用できるものになるはずです。私が集めてデジタル化したデータを「北海道の自然史」というデータベースとして公開し、多くの人が自由に利用できるようにしています。このデータベースは実物をもとにしてつくっており、研究のためにも使うものです。この市民向けと研究用のデータベースが一緒になっている(融合(ゆうごう)といいます)ことが大切だと考えています。
 このような目的のために、私は北海道をかけめぐっています。もちろん大学教員という仕事もあり、他にも共同でしている研究テーマなどもかかえています。その合間をぬって、このようなテーマに取りくんでいます。
 とりあえずは、3年間ほどで13個の一級河川のすべてをめぐるつもりをしています。そのために、1年ほど前から、北海道の中央部、南部などの近いところから調査をはじめました。調査のしかたも、記録のしかたも、今まで誰もやったことがないので、いろいろためしながら(試行錯誤(しこうさくご)といいます)をしながら、はじめています。でも、楽しんでいます。
 その川原の石ころの比較のために、日本の代表的な川の石ころを集めることにしてます。四国では、四万十川(しまんとがわ)をすでに調査しました。そして中部地方では、長良川(ながらがわ)の一部を調査しました。関東、東北、中国、九州、沖縄でも調べたいという希望があります。いついけるかはまだわかりませんが、楽しみにしています。
 もうひとつの大きなテーマが地質学と哲学の間にあるような地質哲学で、だれもまだ挑戦(ちょうせん)していない分野です。
 今までの地質学の歴史の中で教科書にのるような(典型的(てんけいてき)といいます)石の出ているところ(露頭(ろとう)といいます)、あるいは地質学で大切な岩石、地層、石のでかた(産状(さんじょう)といいます)などをできるかぎり、めぐっていきたい考えています。それは、日本だけでなく、海外もふくまれます。そこでは、地質調査はあまりする気はありません。
 もちろん、岩石、地層、産状、露頭はくわしく観察し、代表的な石もとってくるでしょう。撮影もします。
 しかし、いちばんの目的は、地質学の典型とされるところで、いろいろなことを感じ、思いをめぐらしたいのです。そんな野外から、生(なま)の自然からのひらめきをえて、それをもとに哲学的に考えること(思索(しさく)といいます)を深めていきたいと考えています。これを私は地質哲学とよんで、めざしていこうと考えています。
 大きな地質哲学のわく組みの中のひとつとして、とりあえずは、こんなテーマを考えています。地球に流れている時間について考えることです。
 自然科学という広く多くの研究の分野の中で、地球に一度しか流れていない「時間」の変化(変遷(へんせん)ともいいます)をいちばんよく知っているのは、地質学という分野ではないかと考えています。そんな流れていって二度とくり返さない歴史を、いかに科学的に実物をもちいいて証明できるように(実証的(じっしょうてき)といいます)に研究するかというテーマは、地質学の大切な役わりです。そんな一度きりの時間、いってみれば「地球時間」をいしばん深く考え、日々苦労しているのが地質学者なのです。
 地質学とは、宇宙や地球で一度しか起こらない地球上のありとあらゆる大小の自然現象をさぐる学問です。それは、空想ではなく、自然科学ですから、現在に残された証拠から、過去や未来をいかに論理的に再現(さげん)したり、自然の法則を見つけたり、生物のほんとうの姿(実体(じったい)といいます)をみいだすかなどが課題となっています。そんなことを長いあいだ取りくんできたのが地質学です。
 そんな地質学ですから、時間や自然、生命に関する特別な見かた(観点(かんてん)といいます)があってもいいはずなのですが、それを体系だって、あるいは深く考えていくこと(思索(しさく)といいます)にだれも取り組んでいません。そんなことを目ざす変わり者が一人くらいいてもいいのではないかと思って、私が挑戦(ちょうせん)してみることにしました。
 そんなテーマを完成するために、時間と金、体力、気力がゆるすかぎり、世界中の露頭をめぐって見ていこうと思っています。
 以上が、私の現在の研究テーマであります。ライクワークになるでしょう。もちろん終わりをむかえないかもしれません。まだまだ修行中でありますが、そして身にあまる大きな目標かもしれませんが、夢は大きいほどきれいに見えます。そして、夢は大きいほど実現は難しいかもしれません。でも、そんな大きな夢は、持つことからスタートします。そして夢を語ることによって、だれか一緒に追い求める人がでてきたら、もしかするとそんな夢が完成するかもしれません。
 地をはう地質学者にとって、地球は広く、大きいです。上でのべたような夢(研究テーマ)は、果(は)たせないかもしれません。自分の身の丈(たけ)にあった地球や自然が一番きれいに見えるのかもしれません。でも、私の夢の大きさは、地球や太陽系、銀河系にも負けない大きなものにしたいと考えています。想像力があれば、どんな昔のできごとも、どんな未来のことも、見えてくるのではないかと考えています。
 夢を実現するには、まだまだ時間がかかりそうですが、なによりこんな研究テーマを私は楽しんでいます。


■掲示板: 明けましておめでとうございます 

・明けましておめでとうございます・
 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 2年目の後期の講義もあと残すところ半分ほどとなりました。3月いっぱいまで講義予定を立てています。ですから、受講者の皆様も大変かもしれませんがあとしばらくがんばって講義を受けてください。
 新年の最初の講義は、私の現在の研究テーマ、それも一生かけて追い続ける夢のようなテーマを紹介しました。達成できるかどうかわかりません。でも、夢は、いつから目指しても遅くないと考えています。夢を持つから、その実現に向けて努力をするのです。
 夢をもたないと、その夢は決して実現しません。ですから、夢を持つことが第一のステップです。つぎのステップは、夢の実現に向けて、一歩を踏み出すことです。たとえ何万歩かかろうが、スタートは最初の一歩からです。この最初の一歩は、夢を実現したいという自分自身の決意でもあります。
 そしてさらなるステップは、夢を実現するために、何から始めるのがいいのか、どこに行けばいいのか、何を調べればいいのか、誰に聞けばいいのか、などの方法を考えることです。いいかえると、その夢を自分の残された時間内できるように、計画を立てることです。とくに残された時間の少ないときは、生きているうちに夢をかなえたいのであれば、これを慎重にすべきだと思います。
 ここまで計画的にやると、夢が夢らしくなくなるような気がする人がいるかもしれません。でも、本当に実現したいなら、現実的に考えて行動すべきでしょう。私はなんとか残された時間で夢を実現したいと考えています。ですから、ここで紹介した以上に、私は、綿密に計画を考えています。でも、いつもその計画は書き換えられています。でも、これでもいいのです。そんな夢の実現について考えているときも、楽しい夢の世界に遊んでいるような気がします。
 夢を持ち続けている限り、夢を目指して歩んでいる限り、夢に近づいているはずです。たとえ夢の途中で死んでも、楽しい人生だったと思えると私は信じています。そんな一生を送りたいのです。ですから、つらくても、夢を追いかけているのです。
 地質学が楽しいですよというのは、私自身の自己満足で、多くの人に薦めることはできませんが、このように夢を追いかける生き方なら、自信をもってみなさんに薦めることができます。大変ですが、面白いですよ。
 10歳だって早くありません。若さと多くの時間は夢の実現のための大きな武器です。70歳だって遅くありません。経験と処世術は夢の実現には大きな武器となるはずです。どうですか、皆さんも夢を追いかけてみませんか。


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